⼈と地域を⼤切にする企業であり続けたい。

ノルマなし、定年なし。⼈に優しい経営

静岡県セイブ⾃動⾞学校は、「地域に密着した、⼈に優しい経営」を⾏っています。⽇本の少⼦⾼齢化が急速に進み、15歳から64歳までの⽣産年齢⼈⼝は、この10年で250万⼈も減少しました。⼀⽅で、労働⼒⼈⼝
は350万⼈の増加。これは、⼥性の社会進出や、働く⾼齢者が増えたことが理由です。

⾃動⾞教習所で教えるためには公安委員会が認定する国家資格の取得が必須で、指導員は21歳以上、検定員は25 歳以上という年齢制限があります。しかし、地⽅の中⼩企業では⼤卒の採⽤は簡単ではありません。そのため、中途採⽤者を育成するだけでなく、既に働いている従業員に⻑く働いてもらうことが重要で、さまざまな試みを⾏ってきた施策の⼀つが「ノルマなし、定年なし」です。

今⽉は何名の⽣徒を集めるといったノルマ(数値⽬標)を設けていないのは、⼈によって家庭環境が異なるからです。⼀⼈暮らしなら仕事に集中できるかもしれませんが、⼩さな⼦どもの世話や親の介護など、制約がある⼈にも同じノルマを与えることは不公平なのではないでしょうか。ノルマがない代わりに、⽣徒さんや従業員に優しく接してほしいとお願いしています。

⻑く働いてもらうために、多くの企業の定年がまだ60歳だった頃、弊社では定年を66歳に引き上げました。66 と中途半端な数字なのは、他社よりも⼀歩でも前に⾏きたいという気持ちからです。⾃動⾞教習所は「教えるというサービス業」と⾔え、培った経験を⽣かしながら⻑く働き続けられるのは、この仕事のメリットの⼀つです。定年後も希望があれば継続して働くことができ、現在、従業員のおよそ4分の1が65歳以上です。

働き⽅にも柔軟に対応し、例えば独⾝や既婚者の⼥性もいれば、シングルマザーの⽅もいるかもしれません。指導員をしたいけれど⼦どもが⼩さいので16時までしか働けないとなれば、社内で調整し、可能な限り受け⼊れるように努めます。そのような取り組みを続けてきたこともあり、弊社の離職率は比較的低く、誰もが無理なく働ける環境であると⾔えます。

⾃⾝の⽣い⽴ちが、優しさの原点

8年ほど前、経済学者で、『⽇本でいちばん⼤切にしたい会社』を書かれた坂本光司先⽣と出会ったことも、「地域に密着し、⼈に優しい経営」を⾏っている理由の⼀つです。当時、坂本先⽣が教鞭を執っておられた法政⼤学⼤学院で学びたいと思い、友⼈を通じて紹介してもらいました。坂本先⽣は、社員とその家族、取引先や顧客、地域社会、株主などを⼤切にする「五⽅よし」を⽬指すべきだと⾔われ、特に「⼈に接する優しさ」については⾮常に共感します。社員や取引先もそうですし、⾼齢者や障がい者、さらに地域社会への向き合い⽅には学ぶべきところが多く、経営に⽣かしています。

優しさに共感するのは、私の⽣い⽴ちも⼤きく影響しています。私は家が貧しく、兄弟の世話と家事で⼩学4年⽣までしかまともに学校に⾏けませんでした。中学では⽗の仕事を⼿伝い、⾼校はアルバイトをしながら夜間の定時制に通いました。学びたい⼀⼼で、新聞社の奨学⽣制度を活⽤し、毎⽇新聞配達をしながら⼤学に通い、卒業することができました。そのようなこともあり、⾃分と似たような環境の⼈を⾒ると、少しでも⼒になりたいと思うようになりました。

⼈と、地域が笑顔になる経営

「⼈に優しく」という経営哲学は、社内だけにとどまらず、地域にも広がっています。地域に⽀えられ事業を続けられている恩返しをしたく、⼥⼦サッカーチーム「静岡SSU ボニータ」や⼥⼦バレーボールクラブ「ブレス浜松」をはじめ、⼩学⽣の軟式野球⼤会はもう15年以上サポートしています。また、浜松市⻄区にある南⽶系の外国⼈学校「ムンド・デ・アレグリア」には、学習教材や学費の他、サッカー観戦などにも招待しています。

浜松には多くのブラジル⼈が暮らしていますが、⽇本語での運転免許の取得は⾮常に困難でした。そこで、公安委員会へポルトガル語での筆記試験の実現を働きかけ、ポルトガル語を話せる指導員や事務スタッフを採⽤し、2006年にポルトガル語での教習を⽇本で初めてスタートさせました。今では、浜松に住むブラジル⼈の8割から9割が本校に⼊学し、県外の⽅を含めると、年間で500⼈ほどの外国⼈の⽅が免許を取得しています。社会貢献としては、児童養護施設に⼊所している⼦どもたちの⾃⽴⽀援を⾏っています。18歳になると施設を退所しなければならず、就職できなければ住む場所を失ってしまいます。そこで創業当時から、無料で運転免許を取得できるよう⽀援を⾏い、毎年3〜4⼈ほどが利⽤しています。⾦銭的な援助は事業が苦しくなると⽌まってしまいますが、⾃社のサービスであれば継続できますから。⼦どもたちの感謝の⼿紙はなによりの宝物ですね。

⼈に優しく接すること、地域や社会に貢献することが、結果的に事業にも還元されています。従業員が互いに優しく接することで、社内がよい雰囲気になっていくことが分かります。給料や休暇だけでない、そのような思いうや⾏いが働くモチベーションにつながっているのではないでしょうか。これからも、⼈と地域を⼤切にする企業であり続けたいと思います。

代表取締役社⻑ 早川和幸